メッセージ
【景観建築学科】トップランナーからのメッセージ
敷地を読み解き、自然と建築が融合した景観を創造する
建築を設計する際には、建築がたつ敷地をどう読み解き、どう応答するかという能力が求められます。武庫川女子大学 景観建築学科の校舎「甲子園会館」は、その力が高度に発揮された成果といえます。
甲子園会館の前身、甲子園ホテルは、当初、浜辺に建てられる計画でした。しかし、支配人に招かれた林愛作は、海から遠くへだたった現在の敷地に目をとめます。武庫川のほとりに広がる深い松林、その中に残る三日月型の池こそ、ホテルにふさわしいと考えたのです。
この敷地を与えられた設計者・遠藤新はホテルの配置についてこう構想します ―「扉を押して佳人が現れるように松並木を開いて建物が建つ」。さらに池の存在に対しては「緑の屋根は層よりして層に静かに水に近づく」というイメージを描きます。深い屋根が重なった先に池の水面が広がるというデザインがそこから生まれました。
北から川沿いに近づいていくと、微高地を上がった先に建物は現れます。訪問者は正面から建物に相対することになります。そのとき、建物は晴れやかな格調をたたえて迎えます。その奥には一転して緩く下る庭があり、池の水面が静まっています。庭園に向かう立面は陰影に富み、柔らかい。甲子園会館の北面と南面、どちらの表情も、その場に立つ者の心に深く刻まれます。それは、この河畔の敷地に対する的確な読解と応答の賜物なのです。
甲子園ホテル当時の風景
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石田 潤一郎
建築史家, 京都工芸繊維大学 名誉教授, 武庫川女子大学 客員教授