メッセージ
【景観建築学科】トップランナーからのメッセージ
雨庭と減災
地球温暖化に伴って風水害は激甚化。都市のヒートアイランド現象も過酷です。そんななか、京都の目抜き通り、四条堀川交差点の角に日本庭園ができました。新しもの好きの方には、地元の石と樹木などを使った伝統的な「材料」と「かたち」は古臭く見えるかもしれません。でも、その「心」と「機能」は時代の最先端。温暖化と生物多様性の危機への賢い取り組みを目指した「雨庭(あめにわ)」なのです。
これまで邪魔者としてすぐ下水に流していた雨水。おかげで大雨が降ればどっと河川にでて堤防に負荷をかけますし、下水に排水しきれずに「内水氾濫」も増えています。そこで雨はその場で受け止めて「蓄雨」することが奨励されるようになり、建築学会は「雨水活用技術基準」も作りました。
「雨庭」は雨を受け止めてゆっくり浸透を図る植栽空間です。四条堀川は9トン余の貯留能力を持つとともに、都市から消えて行った生き物の生息場所となり、ヒートアイランド現象を緩和します。また、雨と汚水を一緒にながす合流式下水道の弱点を補います。東京オリンピックのトライアスロン水泳会場、お台場の水質汚染が問題となりましたが、あれは、大雨が降ったときに汚水が未処理のまま海にでてしまうからなのです。アメリカのシアトルではこの問題に下水道設備投資ではなく、住宅敷地の雨庭化で対応しました。小規模分散雨水管理システムは大規模なものより費用対効果もいい。自然現象に力づくで対応する「防災」ではなく、雨庭は雨の恵みを得ながら、非常時の災いを和らげる「減災」の鍵です。
お庭は作って完成ではありません。地域の人々の希望に基づく公募型緑化事業として設置されたのですが、落ち葉掃除や、侵入する外来種の除草などの手入れも、地域の方々が担ってられるのです。これをきっかけに全国で、その地域らしい「雨庭」の取り組みが推進されることを願っています。
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森本 幸裕
京都大学名誉教授,(公財)京都市都市緑化協会理事長